みなさん、こんなことを思った経験はありませんか?
「NPO法人って何?」と。
耳にしたことはあれど、「NPO法人とはどんなものなのか」までは知らない、という方は多いのではないでしょうか。
「なんか慈善活動をめちゃめちゃしてて、募金呼びかけてて、ゴミ拾いしたりワークショップやったりしてて……とにかく、超・ボランタリーな団体でしょ?」
というイメージ……実はこれ、ものすごく偏見!なのです。
というわけで今回は、京都のフリーライター・社領エミさんにNPO法人に超詳しいお二人をインタビューしていただきました。
塩山 諒(写真左)
NPO法人HELLOlife代表。事業を通じて「働く」にまつわるさまざまな問題を解決に導く。民間の職業安定所「ハローライフ」は、2014年度グッドデザイン賞を受賞。今回の記事の発起人であり、社領エミさんとは数年来の顔なじみ。
佐藤 大吾さん(写真右)
「初歩的な疑問から答える NPOの教科書」著者。企業でのインターンシップなど、途中企業合併を経つつ一貫してキャリア教育事業に携わる。またNPO活動として98年、議員事務所などでのインターンシップ運営のNPO法人ドットジェイピーを設立。10年間の株式会社とNPOの経営を経て、10年3月、英国発1200億円を集める世界最大級の寄付仲介サイト「JustGiving」の日本版を立ち上げ、日本における寄付文化創造に取り組む。株式会社、NPO法人、財団・社団法人などさまざまな「法人格」ごとの寄付税制について非常に詳しい方。
「社領さん、NPO法人のイメージについて悩んでいます……!NPO法人って、超健全やから! 全っ然怪しくないから!」
「そう言われる方が余計怪しいですよ! ていうかNPO法人って、やっぱり怪しいと思われること多いんですか?」
「そうなんですよ。うち、まともな事業やってるのに……。
会社説明会をしても『お給料出るんですか?』『本業は何をしてるんですか?』って聞かれるのは当たり前。新卒の子の入社が決まっても、親御さんに『怪しい!』って猛反対されるし、馴染みのパートナーさんには『税金払ってないんですよね?』って聞かれるし」
「社領さん、実はNPO法人って株式会社とほとんど同じなんですよ」
NPO法人は「株式会社とほとんど同じ」?
「ど、どういうこと……? えっと、まず基礎的なこと確認させてください。まずNPO法人って本当にお給料は出るんですか?」
「当然、出ます! ちなみにうちは、来年の新卒スタッフを例に出すと、基本給20万にプラス交通費と住宅手当なども出してます」
「めっちゃ普通の金額じゃないですか!?額はどうやって決まるんですか?勤務日数は?」
「各団体の就労条件によって変わってくるよね。株式会社も、給料や勤務日数などの条件は各会社で決めてますよね?NPO法人も一緒です」
「 えっ、じゃ、じゃあ団体の収入は…?寄付金ですよね……?」
「それだけではないです。株式会社と同じように、クライアントから案件を受ける『委託事業収入』だったり、独自のサービスを売る『自主事業収入』とかもあります。ちなみにうちは寄付金はほとんどなくて事業収入が主ですね」
「えー! 今のところ、株式会社と違うところがほとんど見当たらないんですが!」
「だから、『株式会社とNPO法人はほとんど同じ』なんですよ。うちは今11期目なんですが、社員は45名まで増えましたし、けっこう真っ当にやってるつもりではありますよ。社会保険も入ってます」
「でもこの規模の株式会社ならいっぱいありますよね」
ちなみに、
NPO法人HELLOlifeは、「働く」をキーワードにさまざまな事業を展開しています。
民間の職業安定所「ハローライフ」では、若者の就職をサポートするだけでなく、中小企業の採用や人材育成・研修サービスも。行政や国から事業を受託したり、飲食事業部として日本茶スタンド「CHASHITSU」を運営したり……普通の会社のように、さまざまな事業の売り上げで団体を運営しています。
「NPO法人って、てっきり全く収入がない中でボランティア活動されてるんだと勘違いしてました」
「全国にNPO法人は約5万団体あるんですが、確かに多くのNPO法人はボランティア活動が中心ですね。だけどHELLOlifeのような『事業型NPO』と呼ばれる団体は、専従の社員を採用して、株式会社と同じように事業売上を立てながら運営してますよ」
「…NPO法人の人っていいことしているように見えるんですが、なにか特別優遇されてるとかないんですか?」
「株式会社もNPO法人も、同じ労働法のもとにあるからね。労働のルールは完全に同じ。同じように社員とは労働契約書を結ぶし、消費税率も法人税率も一緒!」
NPO法人は、活動するフィールドに特徴がある。
「でも、同じだと言っても『ほとんど』…とおっしゃってますよね?ということは、違いはどこに?」
「NPO法人は、活動するフィールドが株式会社のそれとは違った特徴を持っていますね。社領さんは、NPO法人の活動ってどんなものをイメージしますか?」
「塩山さんは働けない事情を抱えている人のための事業をしてるし…他だとホームレス支援とか、お金がない家の子どもの塾とか…?とにかくなにか困っている人のため…みたいなイメージが…」
「そうですよね。そういった分野は『受益者負担が成立しにくいフィールド』と言えます」
「カレーを食べたいって思ったら、お店でお金を払って食べますよね。サービスを受ける『受益者』がお金を払うことで成り立っているのが一般的な株式会社のビジネスです。こんな感じに」
「そうそう。そもそも受益者からはお金をもらえにくい。なので、別の人にお金を寄付してもらうことで活動を成り立たせるんです」
「このように『利益を受ける人』と『費用を負担する人』が異なる事業を多くのNPO法人は展開しています。株式会社だったら、カレーをつくるのにかかる費用はカレーを食べる人に払ってもらうのが普通ですよね」
NPO法人はなにで収入を得るの?寄付金の構造は?
「そこはっきりさせたほうがいいよね!みんながNPO法人はなんだか怪しいって思うのって結局はお金の部分でしょ?なにで稼いでるかようわからんとこに大事な娘あずけられへんわ!とか、いいことしてるように見えて実は裏があるんじゃないか!とか」
「NPO法人の収入の種類は、『委託事業収入』『自主事業収入』『補助金・助成金』『会費』『寄付金』の5種類があります。ここよくテストに出るとこ!」
「この収入の種類もほぼ株式会社とNPO法人は変わらないです。違うのは、『寄付金』の部分」
「寄付金を得るときに税がかかるか、かからないか、それだけです。株式会社も法律上、寄付金をもらうことはできますが15-20%の法人税を払わないといけないから、そんなことする人はあまりいない。NPO法人は、もらった寄付金に税はかかりません」
「ということは、NPO法人は寄付金を集めやすい…?」
「そう!受益者負担が成立しないところで事業を成立させようとすると、代わりにお金を払ってくれる寄付者の存在は大きいよね。より集められるように、『寄付金』に関しての扱い方が株式会社とは違っています」
「ちなみに、団体が諸々の条件をクリアして『認定NPO法人』になると、寄付をする側も寄付金額のうち最大50%の税が控除されるようになるんです。どうしても手数料が2000円かかりますが…ざっくり言うと、1万円寄付をしたら、2000円の手数料を引いた残りの半分の4千円が戻ってくるということ」(補足:無限ではない。控除額は所得税額の25%+住民税額の30%が上限)
「めちゃめちゃ寄付しやすい & されやすい構造になってるんだ! 」
お金がからんでいるのになぜ「非営利」と言うの?
「はい。行政や企業から案件を受けたり、モノやサービスを売って収入を得るということも株式会社と同じようにしていますね」
「うーん、…NPO(Nonprofit Organization)って『非営利組織』って訳しますよね?お金の流れがしっかりあるのに、どうして『Nonprofit』なんですか?」
「それはよく聞かれる質問です。実は『非営利』とは、お金が絡んではいけないという意味ではなく、『営利のためではない』というのが本来の意味なんです」
「NPO法人と株式会社では、儲けたお金の使い方が変わってくるんですが…
株式会社で言う「利益」を、NPO法人では「剰余金」と言います。
株式会社は『株主から投資してもらい、そのお金で事業を行い、利益を出して株主に返す』というのが基本ルールですよね。なので利益は株主に分配します。
NPO法人には株主はいませんし、寄付者にも分配はできません。剰余金は自分たちの事業に使わなければならないんです」
「さらなるサービスの開発費にするとか、今のサービスの価格を下げるとか、より受益者・公益のために使うのがルールです。『非営利』とは、残ったお金は個人へ分配できないよ、という意味です」
「そうだったんだ! 意味を完全に勘違いしてました」
「剰余金がもらえないんだったら給料高くしとけばいいんじゃないのって思うかもしれないけど、NPO法人は所管庁に財務情報を届けないといけないという決まりがあって、団体全体の人件費もすべて公開されます」
「だから人件費が異常に高かったりしたら『寄付金はちゃんと困ってる人のために使われてるんだろうか』と問題視されることもあります。極端な話、塩山さんがHELLOlifeからの給与で高級車とか自家用ジェット機を買ったら、おいおい公益のために使えよとなるわけ」
「高級車とかジェット機とか、ほしいと思わないですね(笑)」
「NPO法人には株式公開とか配当がないから、NPO法人からの収入だけだとド級の金持ちには絶対なれないよね。でも、株式会社や公務員くらいの給与をもらっているNPO職員はたくさんいるし、マイホームを建てる人もいますよ」
「『剰余金が必ず事業に使われる』と決まっていたり、財務情報を公開するという部分は、寄付者にとって透明性があって安心ですよね。だから『寄付してください』という宣言が成り立つってことか〜」
株式会社は安心で、NPO法人は不安?
「話は変わるのですが、NPO法人ってそこまで健全な取り組みしてるのに、悪いニュースになってるときありません?すごく記憶に残ってて…」
「あるね。『○○県のNPO法人が不祥事』とか報道されるよね」
「そういうのが一回あると『やっぱりNPO法人は怪しい!』って言われて、業界全体がイメージダウンしてしまう気がします」
「不祥事の件数で言えば株式会社の件数のほうが圧倒的に多いよね。めちゃくちゃ多いからいちいちニュースにならないけど」
「NPO法人の場合、珍しいから余計にニュースになるのかな…」
「株式会社でも給料未払いとか、倒産事例とか山ほどある。『株式会社は安心で、NPO法人は不安』なのではなくて、『団体によるよね』っていうことなんじゃないかな?」
法人格は、目的に対しての「乗り物」
「……でも、あれ? 塩山さんが代表をされてるHELLOlifeって、ほぼ寄付金なしですよね? どうして塩山さんは株式会社ではなく、NPO法人を作ったんですか?」
「最初はNPO法人がピッタリだったんです。実は僕、小三でひきこもりになって、中学校も行ってないんですけど」
「その時に『社会のレールから外れたら再起不能な世の中』って仕組みを痛感して、ものすごい疑問を感じたんですよ。『普通』から離れたら、どうして幸せに、安心して生きていけないんだろうって。
起業当時なんとなく見えていたのは、ひきこもり・不登校・ニートとかそういった分野でした」
「おお。まさに、受益者負担が成立しなさそうな分野ですね」
「そうなんです。世の中を変えたいという思いはあったけど、全然ビジネスモデルが立てられなくて…。でも、同じような問題意識をもつ人たちが寄付してくれるかもしれないし、NPO法人だと行政の案件も受けやすい側面もあるし…。だからNPO法人にしました。で、色々活動していたら、結果として委託や自主事業収入が主になった感じです。
これからも生きにくさを抱えている人のための仕事をしたいと思っているので、NPO法人のままでいたほうが選択肢が多くなるんじゃないかと思っています。
まぁでも必要になれば株式会社もつくるかもしれないし…特にNPO法人という法人格だけにこだわってるというわけではないですね」
「社領さん、『法人格は、やりたいことや達成したい目的に対しての乗り物』なんですよ!」
「目的地まで、一番安くて速く行ける方法は何だろう? と考えるのと同じ。飛行機なのか、新幹線なのか、船なのか、徒歩なのか。
自分がサービスを届けたい人はどんな人で、団体としてなにを目的に活動したいのか…いろんなことを総合的に考えた結果、株式会社を選んだほうが得なら株式会社にしたらいい。NPO法人にしたほうが得ならNPO法人にしたらいい。経営者は、経営合理上、理にかなった法人格を選んでるんです。
『NPO法人の人は、損得で考えた結果NPO法人を選んだ』と考えてもらえると、わかりやすいかもしれないですね。『いいことするならNPO』じゃないんです!(笑)」
「得だからかぁ!NPO法人も立派な経営なんですね」
大切なのは、その団体の「目的」
「いや〜、NPO法人って受益者負担が成立しないだけあって、『儲かろう』という気持ちで始まってないじゃないですか。基本的に『人を喜ばせたい』という想いあってというか。私にとっては美しすぎるというか…徳が高くて壁を感じるなぁ…」
「ほんと?『人を喜ばせたいって言われると壁を感じる」っていうけど、社領さんだって読者をハッピーにさせたくて記事をつくってるんじゃないの?」
「多くのメーカーや飲食店だって、『人を笑顔にしたい』と言ってますよ。必要とする人がいるから世の中にはサービスや商品がある。株式会社だっていいことしてるんです。
法人格の種類ではなく、『その団体が何を見て仕事をしているのか』の方が視点として重要だと思います。『業界シェアナンバーワンになる』ことが目的なのか、『ナンバーワンになって世の中を良くする』ことが目的なのか…。事業内容は同じだとしても、きっとこの二社で働く社員や会社の雰囲気は全然違うでしょうね。どっちがいい悪いの話じゃないですよ。『会社の視点』が働き手にとって大きな差を持つ時代になってきていると感じますね」
「法人格よりも、団体の目的を見るか…知らなかったことだらけで、めちゃめちゃ勉強になりました。お二人とも、ありがとうございました!」
NPO法人について、新しい発見はありましたでしょうか?NPO法人へのイメージがこの記事によって少しでも良いものに変わったら…そして就活の選択肢としてNPO法人を考えてみるきっかけになれば嬉しいなと思っています。
「NPOに就職する」特集ページもぜひ見てみてくださいね。
(インタビュー・イラスト:社領エミ 執筆・編集:田川香絵 撮影:五十嵐 崇博)