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日本酒は、今や世界的に脚光を浴びている日本の文化。でも「日本酒が好き」という人も、どのような場所でどれほどの手間と愛情をかけてつくられているか、くわしくは知らない人も多いのではないでしょうか。

(江戸時代から続く趣ある酒蔵です)
日本酒づくりの職人・蔵人(くらびと)を募集しているのは、1818年創業で今年200周年を迎える木屋正酒造。高砂(たかさご)という歴史ある銘柄に始まり、而今(じこん)という新しい銘柄で有名になった名張の酒蔵です。


「今できる最善を尽くして、今よりうまい日本酒をつくりたい」
「日本酒づくりは、製造じゃない。私たちは日本酒を育てているんです」
そんな情熱を自然に語ってくれる蔵人さんたちに会ってきました。

まだ太陽もあがっていない早朝から、ずっと働き詰め…酒蔵で働くことにそんなイメージをもっているとしたら、きっとここでの働き方に驚くはずです。
夜勤も早朝勤務もない、働きやすい酒蔵。未経験でとびこんだ、元SEの蔵人。

蔵人の土井 淳(どい あつし)さんは、IT関連企業に勤めていましたが会社が傾きかけていたことをきっかけに「どうせならやりたいことをしたい!」とこの世界へ。木屋正酒造のことはかねてより知っていて「きれいなお酒をつくる酒蔵だな」と思っていたそうです。
「日本酒は好きでよく飲んでいましたが、くわしいつくり方はまったく知りませんでした。未経験の自分に務まる仕事か不安でしたが7年続けてこれました。想像以上に働きやすい環境でよかったです」

大阪に住む土井さんは、毎日1時間半かけて通勤しています。
就業開始は8時20分。朝礼後仕事に入り、
17時30分には退社します。夜間や早朝にかかる仕事について積極的な設備投資を行っている木屋正酒造では
残業は少なく、職人の世界のイメージにある早朝勤務もないそうです。「つらそうな顔をしている人がつくっている日本酒なんてうまくない」といった考え方が会社に根づいていて、蔵人たちの働き方に影響を与えています。

(水が命、の日本酒づくり。名張はそれに適した環境。木屋正酒造では名張川の伏流水を使用しています)
日本酒づくりは、
洗米に始まり、米に適量の水を吸わせる浸漬、麹づくり、仕込み、瓶詰め、火入れ、そして出荷作業(瓶のラベル貼りや冷蔵管理)などの工程を踏みます。
木屋正酒造では、
入社するとすぐにこの全工程に携わることができ、これはめずらしいことだそうです。
「新人のうちは洗米だけとかとかそういう酒蔵は多いですが、うちは少人数なので全員で日本酒づくりをします。先輩について一からしっかり学べるので、着実に経験を積めるのが魅力です」

日本酒づくりは、9月下旬から翌年6月ごろまで続きます。冬の朝は寒いので、気温が0度になることも。洗米した後、手が真っ赤になってしまうことはつらい部分だといいます。
「日本酒づくりって地味な作業のくりかえしなんです。毎日、朝から蒸して、仕込んで、種ふりをして、昼からは洗米、次の日の準備…。米を10キロ単位で運ぶような力仕事もありますが、女性でも働ける環境は充分にありますよ」

(「男性しか働けないなんて、今の時代ダメですよね」と土井さん)
職人として仕事の大変さも体感する一方、土井さんは「それでもやっぱり日本酒づくりには喜びがたくさんある」と言います。
「日本酒づくりが休みになる夏の間は、酒蔵の清掃や改修、イベントで東京などに出かけたりします。イベントで酒屋さんに会ったとき、『やっぱり木屋正酒造の日本酒はおいしいよ』って言われるとうれしいです。愛情かけてつくっている分、日本酒の瓶の中の全責任がぼくらにあると言いきれるところが喜びでもありますね」

その年はじめての日本酒を搾る11月ごろ、それを飲んだときに
「あぁおいしいな。やっててよかったな」と感じる瞬間が一番のよろこびだと語る土井さん。未経験でとびこんだ世界ですが、もうすっかり立派な蔵人になっていました。
人の手で、生き物を世話するように日本酒を「育てる」。木屋正酒造の蔵人たちの姿勢。

現在の社長であり杜氏(とうじ)でもある大西 唯克(おおにし ただよし)さんは、江戸時代から続く木屋正酒造の6代目。大西さんに酒蔵の中を案内してもらうと、隅々まで清掃や整理整頓が行き届いていることに驚きました。
「酒蔵をキレイに保つのは、『今よりうまい日本酒をつくるため』なんです」

うまい日本酒をつくる酒蔵は、必ず清掃が行き届いていると言い切る大西さん。日本酒づくりに使う布に少しでも雑菌が発生したり、壁の木の匂いが移ったりすると、本来の味には戻れない。余計なものに触れさせないことが、日本酒をつくる上でとても重要だと言います。
蔵人たちは米や麹の表情、発酵の音、匂い…そこにしかないものを観察して感じ取り、次になにをすべきかを考え動きます。「人間の想像力や観察力が、日本酒の味を左右する」「自分たちのその選択が、日本酒づくりに関わる微生物にとってよかったかどうかの判断は人間にしかできないこと」。そんな言葉を聞けば聞くほど、繊細なその世界の仕事が眩しく見えました。

(大量の米を秒単位で浸漬しては運んでいる蔵人さん)

(各袋の米の浸漬時間と浸漬具合を記した紙。その日指定された浸水具合の目標%に限りなく近づくよう、人の手で浸漬時間を秒単位でコントロールしているんです)
日本酒づくりを「お世話」と表現する大西さん。実際に酒蔵でのお仕事を見ていると「心を込めてお世話をする」という言葉がとてもしっくりきます。愛情を込めて、今できる限りのことを考えて大切に育てていく。それが木屋正酒造の日本酒です。
「毎日もろみの表情は変わってくるので、未経験で入社しても『生きているものを育てている』という感覚はすぐにわかると思います。日本酒は育てるものなんです。単純作業とは違います。黄金のレシピや必勝パターンがなく、子育てのよう。毎日表情を見ながら、『どうしたらいいか』を積み重ねて行くような感じなんです」

木屋正酒造の日本酒は、蔵人たちの姿勢や想いを理解してくれた限られた酒屋さんだけに卸されます。顔の見える販売にこだわるのは、ここの日本酒が好きだと言ってくれるお客さまに飲んでもらうため。
日本酒は世界的に評価を受けるお酒であり、近年はたくさんのコンクールが開かれるほどの人気ぶり。ですが大西さんには、話題性や目先の利益ではなく「愛と情熱をもったお酒でお客さまをしあわせにしたい」という想いがあります。
「木屋正の日本酒でお客さんが増えたわとか、こんなよい反応があったとか聞くとうれしいですね。もっと喜んでもらいたい、役に立ちたいと思います。農家さんが『俺がつくった米が木屋正の日本酒になるんや』って自慢してくれることもうれしいですね」
終わりのないものづくり。ただ、ずっと、「今よりうまい日本酒」に挑み続ける。

かつて大西さんは大手食品メーカーで働いていて、乳製品の加工・製造に携わっていました。「日本酒よりもビールばっかり飲んでいましたね」と笑います。
いざ家業を継ぐとなったころ、日本酒づくりを勉強できる技術者育成施設に通いました。そのとき、家業でつくっていた日本酒を先生に飲んでもらうことに。しかし「おいしくない」と一蹴されてしまいます。
「めちゃくちゃショックでした。すごく評価が悪くて『もっとおいしくなれるはず』って言われたんです。近所のおじさんからはうまいって言われていたけれど、うちの日本酒って全国的には通用しないんだなって初めて気づきました」
そのとき先生たちから教わったのは、徹底した衛生管理の大切さ。
「どんな場所でつくられるかで日本酒は変わるということです。使う布の状態や壁の木の匂いなど、とにかくうまい日本酒に近づくために気をつけないといけないことを洗い出し、目を配るようになりました」
その後大西さんは徹底した衛生管理に取り組み、試行錯誤を重ね、新しい銘柄「而今」(じこん)を誕生させます。

(決して同じ味の酒はできない、だからおもしろいと蔵人さんはいいます)
「酒蔵の息子ですが、蔵人になったころはどんな日本酒がうまいのかわかっていなかった。どんな人に売ればよいのか、何をすれば喜んでもらえるのかもわからずに、もがき苦しんでいました。やっとのことでできあがったかと思えば、生はうまいけれどムラがあるとか言われて…そういうさまざまな改善のくりかえしでここまで来ました」
今でこそ、而今ブランドは日本酒を愛する人たちから高い評価を受けていますが、それらはすべて
木屋正酒造が試行錯誤を続け、日々進化させてきたからこその信頼です。

而今という名は、禅宗の言葉が由来。「未来にも過去にも囚われず、今できる最善のことをする」という意味です。まさに木屋正酒造の姿勢をあらわした銘柄。
「今よりもうまくするにはなにが足りない?」「どうすれば?」そんなことを毎日考え取り組んでいます。
而今という日本酒の最終目標は何なのでしょう?そんな質問をぶつけたときにこんな答えが返ってきました。
「ただ、ずっとずっと、今よりうまくするにはどうしたらいいかを考えて挑み続けたい。終わりはないと思います」

うまい日本酒のために、日々できることをやり続けていく。200年続く伝統は、ただ守られるのではなく現代に合わせ進化していくことで受け継がれています。こんな「終わりのないものづくり」に、あなたはワクワクしますか?ものづくりの真髄を教えてもらった、そんな取材でした。
奥深く正解のない日本酒づくりの世界。そこには生き物を育てるかのような手間や心づかいが必要ですが、
一度として同じものができないおもしろさ、そして応援してくれる人たちとのつながりはきっと大きな喜びです。
真摯な想いで生きている人たちと一緒に、蔵人を目指してみませんか?ここにしかないやりがいがきっと見つかります。
【記事を読んで、職人仕事に興味が湧いた方はぜひイベントへ!】
11月20日にハローライフで開催する「職人として働く 未経験から飛び込んだ、職人の世界」に木屋正酒造合資会社の坂口さんが登壇します。職人のお仕事に興味がある、今後のキャリアを考えたい、そんな方はぜひお話を聞きにいらしてくださいね!