News

お知らせ

grafではたらくセカイ

2015.12.24 NEWS

graf1
世の中には、様々なはたらき方、生き方があります。
ハローライフでは、毎月さまざまなゲストをお呼びし、
そのゲストが見ているセカイを覗かせていただくイベント「はたらくセカイ」を開催しています。
記念すべき第一回目はgrafの服部滋樹さん。
当日のトークイベントの中から「はたらく」のヒントをレポートにまとめました。

<profile>
服部滋樹 / graf代表、クリエイティブディレクター
1970 年生まれ、大阪府出身。graf 代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。
美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、
1998年にインテリアショップで出会った友人たちとgraf を立ち上げる。
建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディレクションなどを手掛け、
近年では地域再生などの社会活動にもその能力を発揮している。
京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

 

■プロローグ

お酒を片手に和やかな空気で始まったトークイベント。
話題は服部さんがgrafを立ち上げる前の頃の話から始まります。
grafというチームが出来上がる過程で服部さんは何を感じ、何を考えてこられたのでしょう。
ハローライフを運営するスマスタ代表・塩山諒がナビゲーターとなってお伺いしました。

graf2
 

■学生時代

塩山(以下、塩)服部さんって就活されてたんですか?

服部(以下、服)いや、ちょうど大学の時にバブル崩壊してしまったから、
すごいひどい状態やったんですよね。
2つ上の先輩とかは、「大手家電メーカー3つから内定もらったで!」とか言ってて、
そのうち1社が合コンしてくれるから行ってくるわ〜とか。
そんな時代だったんですよバブルん時って。みんな多分想像つかへんと思うんですけど。
「なんという社会だ」と思いながら大学2年生の時に
そやって就職していく先輩を見ながら過ごしていたんですけども、
突然その翌年にバブルが崩壊しました。1つ上の先輩の背中は暗い暗い(笑)
2つ上の先輩は3社内定で合コンやってもらってるハッピーライフやのに、
1個下になった瞬間に48社受けても内定出ないみたいな。
そんな先輩見てると、就職なんてする気にもなれへんし、
まず自分らで生きていけるような、自活していくシステムってなんやろってことを考えてました。
そこからがgrafのアイデアになっていくわけですけど、それが大学2,3回生の時ですね。

塩)就職なんかしてられへんなと思って、起業を。
ということはgrafの始まりは一人だったんですか?

服)その時はまだ一人で悶々としていました。
僕は彫刻学科で彫刻してたんですけど、
大学の彫刻の先生見てても厳しい生活しているわけですよ(笑)
もちろんすごく素晴らしい恩師もいるんですけどね。
これではずっとやり続けていかれへんと思って、もう少し別の道もあるだろうと思って。
生きていく仕組みを考えると、
同じ意志持ったやつらと生きていくのっていいなって直感で思ったんですよ。

graf3
 

■grafができる過程で見ていたもの

塩)grafという形が出来上がったのはいつから?

服)grafっていう名前が出来たのは1997年かな。大学を出てから。
大学時代にはバブル崩壊とか神戸の震災とか色々あったんですけど、
その頃に「こいつは」と思った連中に話をしていって。
それぞれが、俺家具職人になりたいねんって言ってたり、
作家としてやっていきたいって言ってたり、
グラフィックデザインをやりたいって言うやつがいたり。
そういう連中と大学生の頃に出会ったので、こいつらとやったらおもろいかなって。
特に、志を持っているけど一人じゃちょっとやっていかれへんな〜とか思ってる連中に
「俺こんなことやりたいねんけど、こういうグループができたらお前どう思う?」って聞いてったら
「やってみたい」って言ってくれたんです。
その頃みんなによく言っていたのは、「少年探偵団のようなチーム作りたいな」って。
そう言ったら「あ、それおもろいな」って言ってくれてました。
少年探偵団っていうのは、分厚い牛乳瓶の底みたいなメガネをかけたやつがハカセ君になって
難しい式を解いてくれたりとか、図体のでかいやつが特攻隊長になったりとか、
それぞれのスキルが活きる集団のイメージなんですけど。

チームを作ってもしばらくは食っていけないので、
それぞれが二足のわらじ状態で昼間に修行をやって夜集まるみたいな生活です。
大工さんの修行をやっているやつもいれば、家具職人の仕事をやっているやつもいれば、
設計事務所の社員で頑張っているやつもいればって。
そんなやつらが夜になったら集まってきてみんなであーだこーだ言いながら、
「こんな作品どう思う?」とか言い合ったりしてました。
家具職人の子が自分の背丈以上の家具を作った写真もってきて
「俺こんなん作れるようなってん!」とか言って
周りが「うわー、俺負けてられへんわ」っていう
切磋琢磨みたいなことを5年ぐらいやってましたね。

塩)服部さんも昼間別の仕事というか、修行をされてたんですね。

服)その時はアンティークの家具屋さんでバイトしてたり、
グラフィックデザインの事務所で働かせていただいたりとかしていましたね。

塩)大学卒業後の働き方としては変わった道ですが、
その時に服部さんが描いていた組織のあり方として
カッコいいなと思っていたロールモデルとか、
チームづくりについてアドバイスをもらっていたような方はいたんですか?

服)バカでプライドがあったんだと思うんですけど、
とことん独自でやっていくっていう風に思っていたし、
先輩方をあんまり信じなかったっていうのもあって。
バブル崩壊させたのも先輩だし、世界をこうしちゃったのも先輩だし、
そんな先輩なんかに相談しにいきたくない!っていう意識のほうが強かった。
20代なんかは特にそうだった。

塩)とがってますね〜(笑)

 

■grafができてから見ていたもの

graf4
服)grafっていう組織の話をしていた時に、
ナガオカケンメイさんがすごく面白い言い表し方をしてくれたんです。
「チームっていうと普通こう両手で手を繋いで
円をつくるイメージだけど、grafの場合は片手だね」って。
どういうことかと言うと、
円陣組む時にみんなこう左手をさしのべて、えいえいおーっていうあの形。
あれがgrafやんねって言ってくれたんですね。
そんなこと全然想像もしたことなかったんだけど、すごくイメージ湧いたのが、
利き手は外側向いてて、利き手じゃない手は内側を向いて皆が協力して
自分の欠けている所をフォローしあいながらやっていこっていう形に見えて。
得意な手は外を向いてるんですよ。
得意技で外を向いていて得意じゃないもので内側を向いているっていう。
それがgrafなんじゃないかって。

「めっちゃわかりやすい!あんた天才!」ってナガオカさんに言ってたんだけど。
まさしくえいえいオーの感じというか。そんなのがあるなぁと思って。
両手を繋いで円をつくっちゃうと、外から入ってくるものも入ってきにくくなるでしょ。
あまりにも組織の形態に隙間がないと、
プロジェクトごとにチーム編成を組み直そうとした時になかなか組みづらいいんですよね。
ガチガチに固まってると「これには関われへんな」っていう人も出るかもしれへんけど、
grafの場合完成したシステムではなく、
入ってくる人がいやすい環境を作りたいって思ってるから。
隙間のあるシステムですよね。

で、隙間が多いわけなので、
「僕こんな才能あるけどこういう所が足りてないから
grafのここつかってこんなことやりたいんです」って、
片手を差し伸べてくれる人が増えていく。
それによってプロジェクトの規模だったりとか、
やれることとかクオリティが上がるかなと思っていて。

塩)そうやって関わる人が増えていったと。
僕が服部さんと出会った時は47名、
アルバイトやボランティア含めると6,70名いたと伺ってます。
そこから独立していった方もいたわけですけど、
僕はその時今後もっとgrafは100人とか200人とかに
どんどん大きくなっていくように思えたんです。
そういう発展の仕方は考えなかったんですか?

服)いや、塩ちゃんが言ってくれたように
100、200名のイメージもあるんだけど、
組織の規模よりプロジェクトの規模が優先なんですよね。
新しいプロジェクトの話が入ってきました、
こんなメンバーが必要だけどgrafにはいないから誰かおらんかな〜とか。
入ってくるお仕事に対してメンバーが入れ替わるのが楽しいと思ってるから。
今はgrafっていう組織を形成する最低限のメンバーが残ってその中でやっている感じかなぁ。

だけど今定着しているのは
ブランディングとかライフスタイルとかいうお仕事で、
なかなか畑違いの仕事ってこないでしょ。
もしかしたら今、そこがおもしろくないところかな。
想像をも絶する、宇宙開発とかさ。
「服部くん、宇宙開発に興味あるかね」みたいなこと言われて
「えぇ・・わからんけど、興味ありますぅ」とかいって飛び込んでみたいんですけど、
そういう仕事があんまり来ないから。そこはまだ僕の器の狭いとこかと思ってしまうな〜。

塩)宇宙開発、いいですね(笑)

 

■服部さんがセカイを見る視点

会場から質問)以前、服部さんが店舗の内装を請け負う際に、
間取りやテイストを聞くのでなく、
コーヒーを朝飲むかどうか?といった質問をされていると伺いました。
どうしてそのような質問をされるのか、教えていただけませんか?

graf5
服)そうなんです。
目の前の問題をストレートに質問したところで
本当の問題に対しての回答を返してくれないっていうのが
コミュニケーションだと思っていて。
「あなた私のこと好きですか?」って聞いても
「好きです」ってすぐ答えるのは多分相当難しいと思うんですよ。
だから、どういう風な設計で何をやってほしいかという質問よりも
「どんな時間を作りたいのか。」っていうことを
僕は聞き出したいと思っているんです。
これが実は本質を知るための正しい質問になるんじゃないかと思っていて。

店舗のスタイルなんていうのは流行り廃りもあるので、
例えば「ブルックリン最近流行っていますよね、
こういうコーヒー屋つくりたいんですよね」って言われる程
つまんないことはなくて。
むしろその人がどういうコーヒーを出して
どんな時間をつくりあげたいかって所を聞き出したいので、
スタイルを聞くんではなくて
その人が作り出したい時間を聞くようにしているっていうのが、
そんな質問をする理由なんですね。

僕はいつも設計するときにQ&A形式で、
「朝はコーヒーですか?紅茶ですか?」とか、
「新聞は読みますか?」「音楽をかけますか?」っていう
簡単な質問を50〜100こ用意するんですね。
で、何を知るかというと、
コーヒー飲みたいって人はわりと朝時間にゆとりが少ない人で、
紅茶を飲む人っていうのは時間ゆとりが少しある人なんです。
なぜかと言うと、紅茶を飲む人は葉っぱが広がる時間を余裕もって過ごせる人なんですよ。
コーヒーを飲む人は朝あんまり時間なくて余裕ない人が多いんですよね。
で、どんどん「リビングで音楽を聴きますか?」「新聞を読みますか?」って質問をつづけて、
最後に「デザートを寝る前に食べますか?」って聞くんですね。
デザート食べますって言った人はダイニングのキッチンでデザートを食べるんじゃなくて、
リビングにデザートを持っていってゆっくりしながら
デザートを食べて寝るんだっていうことが感じ取れるんですよ。
そしたらお家の設計をするときに、
ダイニング・キッチンを広くとることよりも
リビングサイズを大きくすることのほうが
この人にとっては大事なんだってことが思えるようになってくるんですね。

空間とか時間って、どういう風に過ごしてるかってことを読み解くには、
その人の時間の豊かさをどういう風に読みとくかってことなんですけど、
だからああいう質問をするってことなんです。

 

■grafではたらくうえで必要なちから

塩)grafさんの求人記事をハローライフで掲載していますが、
その辺りの話も伺っていいですか。
会場には新卒の方も中途の方もいらっしゃいますが、
やはり新卒と中途では入社後の役割も変わってくるんですか?

服)grafのスタッフと名刺交換された方がいればわかると思うんですけど、
肩書がひとつもかいてないんですよ。
職種もかいてなくて名前しか書いてないんですけど、
それは何かというと「こいつがキャラです」ってこと。
だから代表取締役も書いてないんですよ。
しかも僕あんまり名刺持ちあわせてないんで、何様やねんっていう(笑)

塩)それくらいフラットなんですよね。最初はアシスタントから入っていくんですか?

服)新卒でもグラフィックが得意であれば、
すぐ入ってもらって動いてもらうこともあれば。
キャリアより得意かどうかってことのほうが大きいかな。
そのへんはフラットで、中途でも新卒でも
こんなことやってみたいねんっていう人なら自由だと思っていて。
ただ、面白くないことを面白くできる能力は必要とするかもしれないです。
面白くないと思ってしまえば、チラシひとつとってしても面白くないって思ってしまうだろうし。

graf6
塩)各地域のブランディングワークとか、
活性化とか、商品開発とかいうプロジェクトも多いですが・・・
リサーチをして、意見を集約して設計していったり、企画をしたりといった
目に見えないデザインのディレクションができる人も求めていらっしゃいますよね。

服)デレクターの仕事をやったことない人でもいいんです。
企画って目の前のデザインだけすればいいんかっていうと実はそうじゃないんですね。
webなんかは特にそうだと思うんですけど、
かなり未来設計をしていかないとwebのデザインってしていけないんですよ。
例えば10年先にこのwebサイトがどう成長するかってことを
考えながらデザインをしないといけない。
それはグラフィックも同じくですけど。

そういう未来設計をしていく中でコミュニケーションをとったりとか、
相手の言っていることを読み解ける能力が
あるかどうかのほうが僕は大事だと思っているので、
ディレクションは得意って人もいいと思うんだけど、
むしろ問題発見能力が得意って言ってくれたほうがが採用したくなります。
ハードル高いこと言ったかもしれないけど、
目の前の問題が何であるか捉えて
処方箋を用意するのが企画のお仕事だと思うんですね。
それって目に見えている傷口を治すってことだけじゃなくて、
自然治癒を高めるためにどんな企画を用意するかってことを考えるんですよ。
目の前のデザインなんてどうでもよくって、
むしろその先を読み解く能力を問いたいなと。

しまった・・・
こんなこと言い過ぎたらハードル上がりすぎて「無理やんけ〜」ってなってしまう。笑

塩)でもあれですよね、
未経験であってもガッツがあって、
コミュニケーション能力というか人が好きで人当たりよくて、
地域に入り込んでいく中で関わる人たちのニーズを
ちゃんと汲み取れたりできる人であれば大丈夫ですよね。
もちろん最低限のスケジュール管理とか
メール文章作成力とかって部分はあると思うんですけど・・・

服)ハードル低くしてくれてありがとう(笑)
ディレクターっていうのは未来予測をする仮説能力が高いとか、
問題発見能力が高いとか、
プロジェクトマネジメントができるかっていう所になってくると思うんですよ。
でもそういうことに興味がある人ならディレクターにきっとなれると思う。
俯瞰能力があって視野が広いってことが大事なんですけど、
ディレクターになりたいって人は、そのうちどれかに精通していればいい。
どれか得意な部分を投げてくれれば、
僕が「こういうふうにしたらどう?」って未来設計したことに対して
相談しながら仕事していくってことになると思います。

 

■エピローグ

graf7
最後に服部さんに伺ったのは、「服部さんにとって働くとは?」という質問。

その質問に服部さんは
「今僕に出来る能力って、神様に与えられた能力やと思うんですよね」
と話してくださいました。
他の人に出来ない力が自分にはあって、
他の人にできないことをやるから、お金をもらえるんだと。
神様に与えられた能力だから誰かのために使わないと叱られて
バチがあたってしまうかもしれないので、
なるべく自分を活かせる場や環境を持つようにされているそうです。

約1時間半。
服部さんのお話を伺っていて一番印象に残った言葉は
「少年探偵団のようなチーム」という言葉でした。
それぞれ、きっと自分にしか出来ない能力があって、
利き手じゃない手を重ねあって支え合いながらも、得意な能力で戦っていく。
そんな生き方をされているのが服部さんで、grafというチームなんだろうと思います。
「出来ない部分を克服しないと」という焦りを感じたり苦しさを感じる人が多いなか、
本当に大切なことは、自分の苦手な所は「任せる」という勇気を持ち、
得意な能力をめいっぱい活かしきることなのかもしれません。
何より、そのほうが人生を楽しめそうです。

さて、あっという間に「grafではたらくセカイ」も終了です。
あなたの人生のヒントとなるような気づきや発見はありましたか?
そうそう、grafの求人記事も合わせてお読みくださいね。
https://hellolife.jp/company/8106.html

また次回のゲストもお楽しみに!