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コラム

不登校の子供たちにリアルな仕事体験を! 商業施設を舞台に展開する、キャリア教育に特化した新しい「フリースクール」の形。

2025.03.13 「はたらくフリースクール」レポート
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みなさんは、「フリースクール」と聞いてどんな場所をイメージしますか?

一般的には、なんらかの理由で学校に通っていない子供たちに対し、学習支援・教育相談・体験活動などのサポートを行う民間の教育施設とされていますが、学校の代わりに過ごす居場所としての側面など、その活動内容や規模は様々です。

2024年11月、私たちHELLOlifeは10〜15歳の不登校傾向にある子供を対象にした「はたらくフリースクール」を期間限定で開設しました。

「フリースクールなのに期間限定?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。本企画は上記で挙げたフリースクールとは少し異なる、大阪市内の商業施設を舞台にした“お仕事体験ができる1ヶ月間のキャリア教育プログラム”です。

本記事では、「はたらくフリースクールってどんなことしてるの?」「次に開催される機会があれば、参加を検討してみたい。」という方に向けて、2024年度のプログラムの様子や参加者の声をお届けします。

増え続ける不登校と、多様化するニーズ

レポートに入る前に、「不登校を取り巻く状況」について少しお話したいと思います。

令和5年度の文部科学省の調査によると、不登校状態にある小中学生は全国で34万人に達し、11年連続で過去最多を更新しました。在籍生徒数に占める不登校の割合は3.7%…つまり35人の学級換算で1クラスあたり1〜2名が不登校という状況に。今や誰にとっても身近であり、社会全体に関わる喫緊のテーマといえます。

子供たちが不登校になる理由は様々で、これらの原因は個人や家庭の問題にとどまりません。既存の学校システムに馴染めず、「学校に行きたくても行けない」といったケースも多く、教育や社会環境の変化とも深く関わっています。

文部科学省は「不登校支援は“学校復帰”のみを目的にするのではなく、“社会的自立”を目指す必要がある」と発表していますが、年々増え続ける不登校児童数や多様化するニーズに対し、学校以外の選択肢や適切な支援環境が十分に整っていないのが現状です。

「学校以外の多様な学びの場を認め、支援する方針が進む今こそ、子供たちの選択肢をより豊かに広げていくことが重要なのではないか。」
そこで着目したのが、社会にある資源を活かし「生きた学びの場」を提供すること。商業施設を舞台にしたキャリア教育プログラム「はたらくフリースクール」が生まれました。

このプログラムの目玉は、なんといっても本物の商業施設でリアルな仕事を経験できること。今回の体験先は、大阪市内にある「あべのキューズモール」「もりのみやキューズモールBASE」のお店やインフォメーションセンターなど約15箇所です。

はたらくフリースクールだけの特別な「求人票」から仕事を選び、仕事体験を含む全4日間のプログラムをやり遂げると、お給料として3,000円(キューズモールで使えるギフトカード)を受け取れるようになっています。

普段はできない「働く」に挑戦することで、子供たちの自信回復や「社会を生き抜く力」を育むことを目指しています。

実際どうだったの?はたらくフリースクールの様子をお届けします

「とはいえ、いきなり仕事体験は緊張するのでは…?」
「4日間も参加するって、結構ハードル高いような…。」
「どんな人が参加するんだろう。」

など、様々な疑問を解消すべく、ここからははたらくフリースクールの実際の様子をレポートでお届けします!

まず、はたらくフリースクールでは、参加する子供たち自身の気持ちを一番に大切にしたいという想いから、参加希望者本人・保護者の皆さん全員と、事前に面談をさせていただきました。

面談場所は、大阪市の靭公園に隣接している「ハローライフ」。
面談に来ることそのものがハードルになる方もいらっしゃる中で、爽やかな自然の風景が緊張をほぐします。

また、面談といっても何かを評価する場ではなく、最近ハマっていることや趣味について、気になっていること…など、皆さんの興味関心に沿ってお話を聞かせていただきます。

実際にお越し頂いた保護者さまからは

「子供は「面談でどんな事を聞かれるんだろう…」と緊張していましたが、「自分の好きなゲームの話で安心した。話しやすかった。」と、参加へのモチベーションがあがっていました。」

「スタッフの雰囲気を事前に知ることができたので、親子共々安心して当日を迎えることができました。」

などのお声を頂きました。

4日間一緒に過ごすスタッフについて事前に知ってもらい、私たちスタッフも参加者一人ひとりの興味関心や不安などを把握しておく事で、みんなが心地よく過ごせる準備を、プログラム開始前から行っていきます。

ドキドキで迎える「はたらくフリースクール」初日

はたらくフリースクールは20名ごとのクラス制となっており、10〜15歳の年齢や性別も様々な仲間たちと、まずは「出会う」ことからスタートします。

「自分以外に、どんな人がいるんだろう…?」と、緊張の面持ちで会場に集まる皆さん。
それを察したスタッフが、こんな声をかけます。

「みなさん、もしかして緊張してますか?緊張していない人は手を下に、とーっても緊張してる人は手を上に。言葉は使わず、手の高さでみんなの気持ちを教えて下さい!」

すると…

同じくらい緊張している人もいれば、周りと比べたら意外と緊張してないかも?という人も。「なんだ、スタッフの大人が一番緊張してるじゃん!」と笑いが起こった日もありました。

こんな風に、単なる自己紹介ではなく、様々な表現方法を使って、一緒に過ごす仲間の事を知っていきます。

お互いを知り、緊張もほぐれてきたところで、「働く」に向けた準備が始まります。

世の中には、どんな仕事があるの?働くって、どんな感じ?

「働く…といっても、そもそもどんな仕事があるんだろう?」
「働くって大変そうなイメージなんだよな…自分にできるかな?」

まずは、そんな不安や疑問を解消し、安心して仕事体験に挑めるよう、はたらくフリースクールでは様々な準備プログラムを用意しました。

キューズモールを探検し、身近な「働く」を探してみたり…

チームのみんなと一緒に探せば、身近にこんなに沢山の仕事があることに気づきます

「働くって、実際どうですか?」と、大人に質問し、働くことのリアルに触れる時間もあります。

年齢・性別・職業も様々な大人をゲストスピーカーに迎え、それぞれの「働く」についてお話頂きました

今、それぞれの現場で活躍している大人たちの中には、「実は、自分も不登校だった」という、同じような境遇をもつ方も。
自分自身と似た経験を持つ先輩の話を聞くことで、将来へのイメージを膨らませます。

働くために「自分」について知る。新しい自分に出会う。

「沢山の仕事が世の中にある」という事を知ると、次に浮かんでくる疑問が「自分にはどんな仕事が向いてるんだろう?」「どんな事にチャレンジしてみたいかな?」ということ。

就職活動を経験したことのある方などは、一度は考えたことのあるテーマかもしれません。
はたらくフリースクールでも「自分の適性や興味」に向き合いながら、沢山の求人票の中から「仕事を選ぶ」という経験をしてもらいます。

はたらくフリースクールオリジナルの、ユニークな求人票

子供たちが「自分を知る」ことに楽しんで取り組めるよう、はたらくフリースクールの中には、さまざまな仕掛けが盛り込まれています。

その中でもイチオシなのが、「じぶんシート(子供版の履歴書)」と「診断シート(子供版の適性・適職診断)」。

20の質問に答えると「自分の性格」について知ることができたり、自身の「得意・不得意」「興味関心などの価値観」が整理できるような設計がされており、就職活動の際に行う「自己分析」のプレ体験ができるような内容となっています。

ワークを行うなかで「気づいていなかった自分の一面」が垣間見えることも。そんな体験を通して、自分自身を知ることで「こんな仕事もアリかも…?」と職業への興味関心を広げ、いつもの自分よりちょっとだけチャレンジができるようサポートを行います。

疲れた時は、おやつを食べたり、休憩しながら。
キューズモールにあるゆったりとした芝生エリアでくつろいだり、休み時間こそ仲間との距離がグッと縮まります。

もちろん、しんどくなった時に少し場を離れて休めるスペースの準備もあります。
キャリアカウンセラー・公認心理師・公立小中学校での不登校等支援員としての経験をもつピアカウンセラーなど、キャリア形成や自立に向けた支援実績のあるメンバーが、無理なくそれぞれのペースでプログラムに参加できるよう、サポート体制を整えています。

いよいよ、実際の現場で「働く」にチャレンジ!

2日間の準備プログラムを経て、いよいよ実際の現場で働く日を迎えます。

体験できる職種はアパレル・飲食店での接客・販売業務から、インフォメーションセンターのアナウンスなどのお仕事のほか、キューズモールのPR動画を撮影する広報係、キューズモールで行われているイベント等を考える企画職のお仕事…など、多岐にわたります。

これまでの準備プログラムとは違う「リアルな現場での仕事」に、子供たちの気持ちも引き締まります。これまでになかった真剣な表情や、仕事に向き合う姿が垣間見え、体験のたった数時間で多くの自信を得たように感じました。

「不登校のイメージが変わった」受け入れ企業の気づきにも

仕事体験中の子供たちの様子は、どうだったのでしょう。体験の受け入れをしていただき、当日も隣で様子を見守ってくださった企業のみなさんに聞いてみると、「不登校のイメージが変わりました」との回答が。

「“不登校”という言葉に受け入れ側の私たちも緊張していましたが、しっかりとコミュニケーションをとる事ができました。」

「参加した全員が、真面目にかつ意欲的に取り組んでくれました。子供たちとの作業を通じて、わかりやすく伝える方法・難しく感じる作業等、自分たちの仕事を改めて見直す機会になりました。」

「帰り際に「将来このお店で働きたい」と言ってもらえて、受け入れさせていただけて良かったなと感じました。」

なかには、「互いに支え合う仲を築くことの大切さを学ぶべきなのは、大人の方かもしれないと思った。」という感想も。

ただ子供たちが受け手となって学ぶのではなく、それぞれの受入企業の一員となって「働く」からこそ、受け入れ側の気づきや学びにも繋がっているのではないでしょうか。


参加してみてどうだった?子供たちの反応は?

実際に働いてみた子供たちは、どんなことを感じたのでしょう。
はたらくフリースクール実施後のアンケートでは「普段、体験できないことができて嬉しかった」という声が特に多く、仕事をやりきれたことの喜びや、働くことの楽しさ・大変さについても感じていただけた様子が伝わってきます。なかには「ゲームをしている1時間よりも、仕事をしている3時間の方が短く感じた!」と伝えてくれた方も。

そのほか、いくつか頂いた声をご紹介します。

「いつもより、色んなことに目を配れるように頑張った。普段だったら気付けなかったことにも、働くなかで気づくことができて、自分の視野が変わったと思う。」

「職場体験中、お店に来ていたお客さんに質問された。緊張したけど、自分の事をお店の人だと認めてもらえた感じがして嬉しかった。」

「全部が新鮮な体験だった。自分の意見を言っても否定されないので、この場に安心していることができた。」

「働く前に色々学んだ時間も楽しかったし、学校では教えてくれないことを先生じゃない人が教えてくれたこと・友達ができたことも嬉しかった。」

「職場体験先の店長さんに褒められたことが嬉しかった。「接客向いてるね」と、お仕事で接客をやっている人に言ってもらえたのは自信がもてた!」

「配膳の仕事でお茶をこぼしちゃったけど、「こんな失敗、怖くない」と思えた。その気持ちをこれからも大切にしたいです。」

自分の身体を使って働き、大変さや喜びを感じる。
多くの人と関わる、経験を通じた学びによって、「失敗」を「経験」にできるようになる。

まさに、今回のはたらくフリースクールのテーマである「生きた学び」が、それぞれのカタチで得られたのではないかと感じます。

4日間のプログラムに参加すると貰える「お給料(キューズモールのギフトカード)」と「修了証」

そして、なんと参加した子供たち全員が、4日間のプログラムをやりきり、お給料(キューズモールのギフトカード)をGETすることができました!

お給料の贈呈式では、嬉しさのあまり「ヨッシャー!」と声高らかに喜ぶ人も。自分の力で得たお給料がこんなにも喜ばしく、誇らしいものだなんて…!初日には想像もしなかった、子供たちの自信に満ち溢れた姿に心動かされます。

初給料で買った帽子は、誇りであり、自信であり、お守り。

お給料の使い道は、子供たちによって様々。終了後の保護者アンケートで、こんな嬉しいご報告を頂きました。

「はたらくフリースクールのお給料で買った帽子を、とても大事そうに被るので、見ていて微笑ましいです。初給料で買ったその帽子は、子供にとって、誇りであり、自信であり、お守りなのかなと思います。」

参加した子供たちの変化は、身近な保護者のみなさんが何よりも感じてくださっていたように思います。
そのほかにも、いくつか頂いたお声をご紹介します。

「習い事や様々なイベントの直前には、不安が勝ち「行きたくない」と言うことが多かったですが、今回の期間は一度も無く、その日の事を自ら話してくれました。」

「保護者では体験させてあげられない事を、子供に経験させてもらえて感謝しています。家でゲームばかりしていた息子が、ゲームのない環境でも楽しく過ごし、同世代の子と一緒に活動でき、お給料も頂けて、とても達成感を得られたと思います。」

「普段ほとんど外出できない子供が、全日程参加できたことに驚きです。将来のことを一番心配しているのは子供自身なので、実際に働きお給料が貰えた経験は、大きな動機付けになりました。」

「はたらくフリースクールで、発表できたりお友達もできたことから、少し学校にいけるかも!と思えたそうです。」

「不登校でも自分を認めてくれる人がいた、他者と関われた、何かの役に立てた…沢山の学びを得た息子は、どこかイキイキしています。子供たちの自己肯定感を上げるだけでなく、親にも元気や勇気を与えて頂きました。」

「兄弟ともに不登校のため、今回子供たちを長時間預かって頂き、正直とても助かりました。不登校でメンタルが下がった子供を、親だけで支えるのは至難の業で、スタッフの皆さんの対応や接し方を、こっそり見て勉強したいと思ったほどです。どの習い事より楽しく行っていたと思います。」

今いる場所が全てじゃないと知ってほしい。

今回ご協力をいただいた、東急不動産SCマネジメント 地域連携担当の冨永剛さんにもご出演いただいた動画があります。

なんと、この動画のインタビュー&撮影を行ったのは、はたらくフリースクールに参加した子供たち!
広報発信のお仕事として、プロのカメラマンと一緒に動画の制作を行ってくれました。


「はたらくフリースクールを通じて、「世界は1つじゃない」「今いる場所が全てじゃない」と知ってほしい」

単なる商業施設ではなく、地域とのつながりを丁寧につくりながら、そこに集まる声に真摯に耳を傾けてきたキューズモールさん。そんな地域に密着した土壌があるからこそ、子供たちを暖かく見守ることのできる、懐の深さを感じます。

「社会でやっていけるんだろうか」という不安から逆算してプログラムを設計する

企画・運営する私たちHELLOlifeは、これまで若者のキャリア形成支援・就労支援を中心に「働くこと」にまつわる社会問題の解決に取り組んできました。

厚生労働省から委託を受け運営する就労支援拠点では、主に15〜49歳の「働くこと」に悩む方や、そのご家族とお話する機会が多く、また不登校やひきこもりに関する支援機関・教育機関の方々と連携することもあります。その中で本当に多くの方から聞くのは

「自分は、社会でやっていけるんだろうか」
「うちの子は、社会でやっていけるんだろうか」

という声です。この「やっていけるんだろうか」というのは、就労の年齢に達したときに(あるいは、すでに達しているが)就職して自立していけるのだろうか、という意味です。

多様な働き方への理解が広がりつつある時代となり、企業や社会への理解促進についても私たちにできることに取り組んでいるところではありますが、まだまだ今の働く現場というのは「環境を個に合わせていく」よりも「個が環境に合わせる」という実態がほとんどです。

そういった厳しい社会においても、信頼できる支援者たちと出会いふさわしい就労支援・キャリア支援に触れることで、相談に訪れる多くの方は社会的自立を果たし、働くことによって生きる自信を取り戻していきます。

どのようなサポートがあれば
支援者はどんな人間であれば
どんなキャリア支援のノウハウをもっていれば

いずれ訪れる就労という段階で、子どもたちとその家族が「社会でやっていけるんだ」と思えることの力になれるか、私たちはそこに立脚し、この「はたらくフリースクール」という学びの場を運営しています。

HELLOlifeの代表塩山も不登校経験者。
当時出会った大人の多様な生き方・働き方を目の当たりにし、将来に希望を持つことができたと話します。

朝起きて、行くところがある
「おはようございます」と言える相手がいる
自分の役割がある
自分がした仕事で、仲間やお客様に「ありがとう」と言ってもらえる

人と関わり自分の役割を全うすることで得られる、そんな「働くこと」のシンプルな真理が、人になんて大きな自信を与えてくれるかということを私たちは身をもって知っています。

だからこそ、「はたらく」という生きた学びを届けられるプログラムである必要があり、キャリア形成支援・就労支援を生業にしてきた私たちだからこそできるプログラムだと思っています。実際の就労支援現場で使っているツールやノウハウを活用しながら、いずれ迎える就労段階を見据え、今なにができるか・どのような形の学びにするべきかを考えプログラムを提供しています。

「自分は、社会でやっていけるんだろうか」という不安を、「自分は、社会でやっていけるんだ」という自信に。本人やご家族とともに悩み、歩んでいけるプロジェクトであれるよう、今後もたくさんの方のお力をいただきながら磨いていきたいと思います。

【ご案内】

「次があれば参加してみたい」「ちょっと興味あるなぁ…」というお子様や保護者・支援者の方へ、次回「はたらくフリースクール」開催決定時のご案内などをHELLOlifeからお届けいたします。ご案内を希望する方は、以下のフォームよりご連絡をください。(参加申込みではありません)みなさまのリクエスト、お待ちしております。

▼はたらくフリースクール参加希望フォームのリンク
https://forms.gle/Jy52Esv9m7rAJUax5