「政策すべての輪郭合わせをすると、町のメッセージになる」船木成記のはたらくセカイ
2016.11.10
NEWS
世の中には、様々なはたらき方、生き方があります。
ハローライフでは、毎月さまざまなゲストをお呼びし、そのゲストが見ているセカイを覗かせていただくイベント「はたらくセカイ」を開催しています。
第9回目のゲストは尼崎市顧問の船木さん。広告代理店社員でありながら、外側からのプロモーションではなく、組織の中から行うシティプロモーションの本質とは?当日のトークの中から、そのヒントをレポートします。
(聞き手:塩山諒)
<profile>
船木成記(ふなき・しげのり)
尼崎市顧問<㈱博報堂より出向>、地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)運営委員
社会課題の解決を目指すソーシャルマーケティングが専門分野。メインテーマはつながりのデザイン。観光&人材育成、地域活性化、まちづくり、伝統文化、環境、次世代育成&社会福祉、公衆衛生領域が主たる領域。内閣府勤務経験を生かし、行政やNPO、NGO等ソーシャルセクターの支援や社会起業家のサポートも多く手がけている。『チームマイナス6%』、WLB推進の『カエル!ジャパン』、メタボ対策の『杉並ウエストサイズ物語』、ローカル鉄道・地域づくり大学等、多数のソーシャルプロジェクトに関わる。2012年4月より尼崎市顧問。現在尼崎のまちづくり、シティプロモーション、SBや長期実践型インターンシップの推進、学習する地域の実現に向けて注力中。
■内閣府から、尼崎市へ
塩山(以下、塩)船木さんは博報堂で「チームマイナス6%」や「クールビズ」といったプロジェクトに関わってこられたわけですが、その広告の仕事から尼崎市の仕事へ移った経緯というのは、どういうことがあったんですか?
船木(以下、船)その辺りのプロジェクトの後に、内閣府に出向して、ワークライフバランスや男女共同参画の仕事をしていた頃なんだけど、そこで少子化とか社会保障の問題とか、これは本当にやばい、どっかで何とかしないと国が壊れるなっていうのに気づくわけ。今って政治家が意志を持って何かをすれば変わりそうな気風もあるけど、シングルイシューに近いじゃない?だけど僕らの日常は、いろんな局面いろんな場面で関わりあっていて、(一つの課題解決だけでは)社会は変わらない。そこで思ったの。国の仕組みを経験して。国は、昨日と同じ明日は作れるけれど、昨日と違う明日は作れない仕組みだなと。国が国を変えられないとしたら、地域から変わらないと日本は変わらないなと。国が縦割りだったとしても、基礎自治体では、最後に一つにまとまっていくのだから、ここを束ねたり組み替えたりすることが出来たら地域社会から、日本を変えることができるんじゃないか?と。
それで内閣府から博報堂に帰ってきたころ、尼崎どうですか?っていう話がきたので、縁もゆかりもない関西だし、尼崎だけれど、チャレンジしてみようかなと。45万人都市って結構大きくて経済規模も影響力もあるので、そこが変われば社会が変わる礎になるんじゃないかなと思って、関わることを決断したんです。
■輪郭合わせをスタート
塩)でも時間がかかりますよね。志とか想いの部分があっても、変化を起こすっていくことに抵抗があったり、大きな組織の中ではなかなかすぐに変わらないじゃないですか。今5年目ということですけど、船木さんが考えてらっしゃったイメージに変わってきましたか?
船)実は尼崎に身を置いて「これをしよう」っていうのはなかったんだ。地域の課題に気づいてそれを変えていく時に、僕にはなにができるか?っていうことしか考えてなかった。
はじめは、尼崎を外からの目で見たときに尼崎は等身大評価されてないと思ったの。外部から「しょせん尼崎やしな」というイメージを持たれていたり、自分達でも町のことをネガティブに思っていたり、どちらにせよ下に見られちゃう。まずは等身大の評価をみんなから得られるようにしようというのが出発点。「いい所だよ」って言うのはいきなり難しくても「実は尼崎ってくらしやすいよって言われたらそう思うでしょ?」ぐらいの輪郭合わせからスタートした。そこから必要なことを段々と準備していくっていう。
塩)輪郭を合わせていく、ですか。
■薄皮ではなく、あんこの部分「おまんじゅう理論」
船)船木オリジナルだけれど(笑)おまんじゅう理論って言って。薄皮の部分を美味しそうに見せるのが広告屋の仕事なんですね。でもそれだったら僕は博報堂の仕事として、尼崎市さんからお金をもらいにいきます。僕が中に入って一緒にやるっていうのは広告的な魔法をかけていくということではないんです。よく魔法を期待されることもあるけど、そんなものはないです(笑)。そうじゃなくて、本当は政策そのもの、まちづくりそのものが、メッセージなんだよね。そこをつくる所から初めないと、町に対する目線とか輪郭は変わりませんよと。だから政策的なメッセージをひとつにして、そのビッグピクチャーに向かって、どの部署の人たちもそれに向かえるよう、政策から佇まいからを整えていくっていうのが絶対必要なんですよっていうことが、僕がこの3,4年言い続けてきたことかな。
全ての政策全部がある方向のもとに整ってるか?っていう所の方向合わせをしているっていうのが、乱暴に言うと僕の仕事。時間をかけて信頼関係を作りながら、丁寧に意思疏通を図っていくと、その方向感が合ってくるんです。僕だけが言ってるのではなくて、同じことを市長も言ってるし、副市長や幹部も言ってるってなってきて、そうすると多分、職員それぞれが自分たちの選択に迷いがなくなってくるんじゃないかな?推測だけど。ブレがなくなってきて方向感が整ってきて、出て来る資料の切れ味もよくなってきてるぞっていうのが、今思ってることかな。
塩)薄皮の部分をやっているのがクリエイティブディレクターで、船木さんは中に入ってインナーブランディングをやっているってことですね。
船)そうそう、インナーブランディングですね。内発的シティプロモーションとも言うし。
■ビッグピクチャーを描き、全ての政策の方向性を整える
会場)政策の方向感を揃えるというお話ですが、具体的にどのようなことをされているんですか?
船)whyとwhatとhowっていつも言うんですけど、なぜやるの?なにをやるの?どうやるの?っていう。特にwhyの部分、その政策をなぜするの?っていう所を突き詰めるってことですね。それによって、何のためにこの政策はあるのかっていうところを共有できていく。
尼崎にも色々課題がある中で、最終的な大きな絵としては、「都市の体質転換」って言ってるんですね。日本の人口は増えずに減る一方ですって中だけど、なんとか市内の人口バランスは整えていきたいと思ってるんですね。高齢者の割合が高いのではなくて、ファミリー世帯がある程度流入してくれることでピラミッドバランスを整えて、地域を持続可能な形にしていく。尼崎は、ファミリー世帯の流出が顕著なんです。出ていくんだったらそれ以上入ってきてほしいし、なるべくなら出ていってほしくない。そんな状況をつくりだすためにまちづくりのメッセージをどうしていくのかっていう大きな所を考えていくんです。
それって、一担当部門考えるが子育て世代の優遇施策っていう話だけではないんですね。ファミリー世帯にこの町で子育てをすることが自分達の人生にとって意味があると思ってもらうには、例えば景観とか治安とか、学びの機会とか、いろんな部署の全部の仕事がそういうメッセージに繋がっているんですよ。そういう意識を持って、目の前の政策をそれぞれがつくっていますか?事業の評価をしていますか?という。そういう感じかな。ビジネスの現場だと当たり前なんですけどね、多分。でも行政の現場では360度いろんな現場がある中で、一つ一つが丁寧に揃えられてはきていない。僕もさすがに全部の事業は見れないんだけど、大きな案件とか投資的案件とかで1つ1つの仕事を整えていく、と言うと偉そうだけど、みんなで合意できるよう取り組んでいます。
■歴史的なDNAから、町への自尊感情を育む
会場)他の自治体などと尼崎市の差別化をする中で、船木さんが意識されていることはありますか?
船)みんなのサマーセミナーというものがあります。壮大な計画のもとにできている一つのプログラムなんですけど。実は「学習する地域」って尼崎を言うことが出来ないか、というのがブランディングのコアで考えていたことなんです。経営論で「学習する組織」っていうのはありますけど、地域社会全体で学びを大切にしていくということを言ってるのは多分尼崎ぐらい。
でもこれって僕が外から言葉を持って来たのではなくて、尼崎っていう町の歴史にすでに刻まれている学びのDNAがあるんですよ。地理的にも尼崎は昔から人の交流の交差点で、いろんなバックグラウンドの人が集まっていたんです。ほかには戦後の高度成長期には阪神工業地帯っていって公害を経験してきた、都市型課題の多い地域です。どこも経験してこなかった都市型課題を羅針盤のないまま苦しみながら乗り越えるってことをずっとしてきた町なんですよね。そんな風に、経験から学んでそれを乗り越えてきた歴史がある。
自尊感情とか町を見る目っていうのをどこに持つのかっていう時に、そういう経験が財産なんじゃないですか?という問いを立てて。
学びとか学習といった話がこの町にとってフィットするんじゃないかと思ってもらえるように、2年ぐらいかけてみんなのサマーセミナーを始めてきたんだけど。いろんな市民が講師になって講座を作っていくんですけど、教えたい人ばっかりで、去年は2日間で170講座、今年は300講座を超えているの(笑)スイッチが入ったら動き出す人たちが多くて。想定以上にものが動き始めているんですよ。
塩)まちのみんなが先生に、というのがいいですね。
■エピローグ
今回のはたらくセカイ、スケールの大きな話の多い回となりましたが、みんなのサマーセミナーの話題の最後に船木さんが口にされた言葉が、これからの行政のあり方を考える大きなヒントであったように思います。
「行政って、手を差し伸べなきゃいけない人に直接手を差し伸べるのは得意なんだよ。生活保護とか、困窮状態にある人への行政的な対応をする。でもそれで今、手一杯なんだ。職員が少なくなっていくなか、手を差し伸べなければいけない人の数は、社会全体でどんどん増えている。社会保障費の問題だね。もちろん、行政に対して、あれしてくれこれしてくれと要求型の市民も多い時代になっているし。そういう方々への対応で、手を取られてしまっているのが現実。ところがね、尼崎は45万人いるわけですよ。行政の人が直接出会わない人が大多数なわけ。伸びやかに力のある人たちはいっぱいいるし、行政の人がそういう人たちと、いつどこで、どう出逢うかが勝負で、それが町を信じる力になる。みんなのサマーセミナーみたいな機会じゃないと、行政の人はそういう人たちになかなか出会えないんだよね。行政の人がそういう町を信じる力を持った上で、目の前の支えを必要とする人に向き合う勇気を育む機会になってほしいなと思っている。」
薄皮ではなく、あんこの部分、基礎自治体の中に入り込んで町を変えていく船木さんのはたらくセカイ、一部でしたがダイジェストでレポートさせていただきました。
また次回のはたらくセカイもお楽しみに!