日本全国で“一番人口が少ない場所・鳥取県”というまちを舞台に、
若者と地域をつなぎ、過疎高齢化が進む中山間地域に新しい風を送り込んでいるのが、
NPO法人学生人材バンク代表の田中玄洋さんです。
ともすれば、ネガティブに捉えられてしまうかもしれない「人の少なさ」という切り口が、
実は鳥取県が鳥取県らしくあるための、大切なキーワードだということが見えてきました。
北に日本海、南に中国山地を持つ鳥取県といえば、「砂丘や梨、らっきょうでしょ」なんて、
ちっぽけな知識を心に秘めつつ、大阪から車で向かうこと2時間半。
兵庫県や岡山県にも隣接している鳥取県は、関西から比較的アクセスのよい場所です。
取材に伺ったこの日は、朝からしとしと雨が降り、時に雪までちらつくあいにくの空模様。
「せっかくの自然豊かな景色が期待できないかな」と半ば諦めかけ気味で、
ふと車窓から外を見やると、眼前に広がっていたのは空と山のコントラスト。
何色もの濃淡で表現される景色は、なんだか水墨画のようにもみえます。
少し寂しげで、それでいて情緒ある冬ならではの景色がそこには広がっていました。
そんな風景を目に焼きつけながら、次第に車は鳥取市内へと入っていき、
今回の待ち合わせ場所、鳥取大学前のテナント入りビルの一画にある
『鳥取情報市場』に到着。
ここは、学生や地域の方々が気軽に集えるコミュニティスペースのような場所です。
「いやー、お待ちしてました!遠かったでしょ?」
そう言って、私たちを迎えてくれたのは、NPO学生人材バンクの代表・田中玄洋さん。
「じゃあ、早速なんですがちょっと案内したい場所があるのでそっちから行きましょうか!」
そういって、そそくさと車へ向かう玄洋さん。
「これからね、秘密基地、通称“アジト”って呼ばれてる場所があるんで、
まずはそこに行こうと思います。元々学生向けの下宿だったところを借り上げて、
壁とかぶち破って会議室みたいにして、改造した面白い場所なんです」
そう話す玄洋さんは、なんだかちょっと楽しそう。
ということで、まずは誰もが気になる『アジト』から紹介してもらうことにしました。
まちの中を抜けて、民家の小路を抜けて到着したのは、年季の入った一軒の民家。
軒先に掲げられた「学生人材バンク」というインパクト大の木彫り表札(?)をくぐれば、
昔ながらのお風呂やトイレにはじまり、こたつのある部屋や漫画のある部屋、器材部屋など、
たしかに学生寮のような雰囲気。もちろん会議室のような部屋はあるけれど・・・
一体ここは何をする場所なんですか?
「学生たちが夜な夜な会議したり飲み会したり、たまに泊まってたりする人もいますね。
中には暮らしてる人もいるみたい(笑) あとは、学生や社会人、地域のひとが集って
語り合う“アジトノウタゲ”っていうのも月に1回開催したりしてます。
昔は学生たちが共同で住む下宿がこの辺にもいくつかあったんですけどね、
この時代だからみんなアパートとかに住むんです。
そしたら学校以外に集う場所がない、だからこの場所を作ったんです」
生活のベースとなる“部屋”と“大学”以外のサードプレイスを作ることで、
様々な活動をする学生たちが集い、世代間交流や地域交流が生まれるというのはよくわかる。
でも、正直これって玄洋さんがやっている仕事とどう結びついてくるんでしょうか?
「僕が今やってる活動とか、地域との接点の原点て、実は学生時代にあるんです」
元々静岡県出身、「大学で砂漠緑化の勉強がしたくて」と、鳥取大学を選んだ玄洋さんは、
はじめは技術や国際協力などのハード面をイメージしていたものの、いつの間にか
緑化に携わる”人”にどう関わるべきかという、ソフト面に興味が移ったといいます。
そこで、当時、鳥取の地域活性化のためにいろんな人が集まっているメーリングリストを紹介してもらい、
行政関係者から高校の先生、まちの商店のおっちゃんや大学生まで、
何とも幅の広い人種の中で、非常にフラットな関係性で議論ができる場を経験したんだそう。
それが、何より大きな経験だったといいます。
「当時も今も一緒ですけど “大学生は暇なんでしょ?”って思われてる部分があったんですよね。
いやいや、そんなわけないんですけど(笑) あとは僕の名前も変わってるんで、
“玄洋っていう面白いやつがいるぞ”っていう噂が広まって、
“じゃあ地域のこと手伝ってよ”と声がかかるようになったんです」
そこからのエピソードはというと・・・おっちゃんたちとの飲み会があれば呼んでもらい、
気付けば終電を逃し、結局5次会くらいまで付き合うことになり、
その結果地域の面白い方々とつながっていくというもの(笑)。
そうやってとことん相手の懐に入っていく姿と、映画の伏線を散りばめていくような戦略に、
なんだか地域のおっちゃんたちから愛される玄洋さんの人柄が少しわかったような気がします。
毎年、人の新陳代謝を繰り返していく“大学生”が、鳥取にいる間は
少しでも地域のひとたちとつながれる場所を、という想いが込められた『アジト』。
それは、大学進学で足を踏み入れたこの地で、地域のおっちゃんたちとある意味寝食をともにし、
ゼロから根を張ってきた玄洋さんが、後輩たちに“背中”で語る
地域での生き方のようにも見えるのでした。
そんな『アジト』をひととおり見せていただいたところで、
話の続きは、先程の『鳥取情報市場』に戻り、お伺いすることに。
現在、玄洋さんが行っている事業を説明すると、「農山村の作業を手伝って欲しい」地域側と、
「バイトやボランティアをしたいけど、どこに行けばいいかわからない」学生側を
つなげるための情報配信事業がベース。そこから学生ボランティアの参加促進に、
農村での企画、若者の移住・企業支援、そして人材育成のための研修と、
若者が地域に踏み出し、腰を据えるまでの流れを、ゆるく円で結ぶような仕事を行っています。
そんな玄洋さんが描く円の中にうまく入り込み、
今や地域になくてはならない存在になっているのが、この日遅れて合流してきた平賀謙太さん。
鳥取県東部にある八頭町で、地域おこし協力隊として活動されています。
今でこそ、八頭町にある船岡農場とタッグを組み、草刈りなどの農業支援や
鳥獣害対策をする“農拡機動体”という活動や、県を挙げて力を入れる白ネギの生産に
精を出す毎日だと言いますが・・・
「はじめからそんなにうまくいっていたんですか?」と尋ねてみると・・・
「実は3年前、僕は鳥取県が受け入れる“地域おこし協力隊一期生”だったので、
地域の人からしたら宇宙人襲来か?宗教団体か?っていうくらいの思われ方をしてたんですよ!
こんな田舎に、しかも若者が集団で来て何をするんだ?得体がしれんということで、
はじめは全く誰も相手にしてくれませんでした」と、ポツリ。
平賀さんたちがやりたいことを提案しても、今の暮らしで手一杯だから、
そんなもんできるわけがないと地域から全否定される日々。
しかし諦めずに何度も失敗を繰り返す中で、
“売り込むだけじゃなく、いかに相手の欲することを吸収できるか“という、
地域ならではの付き合い方を肌身で感じたともいいます。
さらには、なんと火事で家が全焼するという大きな事件があったことで(!)、
地域から自発的に「わしらも何かしよう」という声があがり、国や県の補助金をもらいながらも、
地元の大工さんたちが一緒になって新居を建ててくれたという話を聞いて、
地域の秘めている底力の凄さとその変化っぷりに、驚いてしまいました。
何かやってみたいなと思う若者がいても、地域に接点がないと入っていけないし、
入れたとしても、地域側が受け入れ慣れしていないと浮いてしまう。
そんな課題を解決するために、玄洋さんは自らの活動の礎を、こう語ります。
「人海戦術じゃないですけど、よそ者若者の受け入れとして“4つの段階”をとっています。
受け入れ体制がまだ整っていないところは、まず地域の話を聞くというところで、
ボランティアや学生を入れて“慣れる”環境をつくる。
土台ができたところは、地域おこし協力隊などを入れて、“活性化”させていく。
そこから地域と学生が、自分たちの資源やアイデアを元に“企画”を継続していく。
そして次は“移住”のための受け入れ体制を、となるんですけど、
ただ移住となると地域側に本当に受け入れる気があるか、もしくは死んでも俺が守る!(笑)
というような心づもりを持ってくれる人が、本当に地域の中にいるのか。
若者を手当たり次第に送り込んでいく、という話ではなくて、
“この人は本気で若者を支えてくれるだろうな”という人がいるかを見極めることが大事ですね」
実際、平賀さんを地域につなげたのはもちろん玄洋さんで、
平賀さんの活動拠点となる船岡町にいらっしゃる、通称“大親分”がいたから、
安心してサポートができたといいます。
しかしその一方で、玄洋さんは「学生やよそ者は、あくまで一時しのぎにしか過ぎない」と
言われてしまうその感覚を、わかりやすく言えば“覚悟が足りないから”と表現されます。
「例えば地域のおっちゃんから、”今度、運動会があるから来いよ”って言われるとするじゃないですか。
普通なら社交辞令でその場で終わりになるのが一般的だと思うんですけど、
うちは“本当に行け”って言うんです(笑)
で、学生が実際に行ったら、“なんで来るんだよ”て言われるかもしれないけど、
“だって来いって言ったじゃないんですか!”って言えばいいと思うんです。
すると飲み会なので、飲んだら帰れなくなるわけです。
そしたらだいたいおっちゃんから“お前、帰りどうすんだ?”って言われるんで、
学生なんかは“車ん中に寝袋あるんで、そこで寝ます”って言うわけですよ。
そしたら“仕方ないな…、じゃあうち泊まってけよ”って、こう言われるんですよね(笑)」
もうここまできたら、玄洋流・誘導尋問のプロフェッショナル講座みたいなもの(笑)
でも、自分がどれだけ本気なのかがわからないと、相手もどれだけ期待していいのかわからない。
それは、家族や友達、恋人など、自分と近しい関係性においてはもちろん、
これから親しくなろうとしている相手にとっては、なおさら大切にすべき点ではないでしょうか?
一見、とんとん拍子に事が運んできたように思える玄洋さんの半生ですが、
何もないところからスタートして、地道に積み上げてきたその努力はきっと人一倍です。
「だからこそ、“こういう風にしたらうまくいくよ”というモデルを
誰かが示してあげなきゃいけないな、と。町村単位の職員さんはノウハウも時間もないから、
好きにやってと言われても課題が見えてないので、何を好きにやったらいいかすらわからない。
だからね、それを僕がやって、外から若者をどんどん連れてこようかと(笑)」
そう言ってニヤリとする玄洋さんは、
自分の活動のまたの名を「平和な人さらい」とも呼ぶのでした。
鳥取は、日本一人口が少ない場所であるがゆえ、
県内の人材マーケットも小さすぎて大手の求人媒体などが入ってこない風土があるといいます。
それゆえ、何事もクチコミ命。
“人の信頼度で成り立っているまちの文化”だからこそ、地域にするりと入り込み、
漫談家のように、話術と間合いで人々をぐっと引き込む玄洋さんの存在が、
このまちに必要とされていることは、もはや誰に聞かなくても明らかですよね。
「これからは、自分で考えて自分で組み立てて決めていくという時代になってくる。
誰かが決めたことだけを消費していくというのは、言い方は極端だけど
知らないうちに、いろいろ損するんじゃないかと思うんです」
と前置きしたうえで、
「鳥取は、給料は少ないかもしれないけど、“農山村”というキーワードで
採れるものや資源がたくさんあるから、それを使って自分から新しいことを発信したいという人は、
ぜひ鳥取に来て欲しいなと思っています。
あとは、“新しい働き方”がしたいという人も。
貨幣経済ではない謎の経済学が働いているので(笑)、
隣のおじいちゃんからもらった野菜を食べてると、それって実質無農薬の野菜なんだよね、
とか、自営業なので育休をしっかり取得する男性は当たり前なんだよね、とか。
そういう新しい価値観に対して受け入れ体制がある地域になれば、
選択肢なんていくつあってもいいんだって感じられる。
それが将来的に自分の子どもに伝わって、その価値観が自然と受け継がれていく。
そんな地域をつくっていきたいし、一緒につくりたいって人にもぜひ来てほしいですね」
それはまさに、“正解を選ぶ”ことで安心感を得る生活から一歩進み、
これからの“正解のないものを選ぶ”ことが、楽しさや安定につながる時代。
そのモデルをこのまちから示したいという“時代への先見の明”を感じずにはいられません。
元々は、砂漠緑地化がしたいという想いで鳥取に来たけれど、
結果としては「平和な人さらい」をしているという玄洋さん。
緑地化は、苗木を植えて終わりではなく、むしろそこからが始まりです。
玄洋さんと一緒に、たくさんの人が持つ”芽”を育ててみたいという人、
はたまた、全国から注目を浴びる”鳥取県の地域おこし協力隊”になってみたい人など、
まずは2月15日に開催される『地域仕掛け人市 in 大阪』で、
あなたが持っているアツい想いを、ぜひぶつけに来てください。
これからも、鳥取にたくさんの出会いをもたらし続ける玄洋さんや平賀さんのもとで、
あなた自身の”可能性の種”を育てていくための、ターニングポイントになるはずです。
(取材・文/喜多舞衣、撮影/倉科直弘、コーディネーター/古市邦人)
本コラムについて | 本コラムは、2月15日に開催された「日本全国!地域仕掛け人市 in 大阪」の団体紹介コラムとして作成させていただきました。 |
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「日本全国!地域仕掛け人市 in 大阪」について | 2015年2月15日、西日本各地の魅力あるまちで、地域ぐるみでチャレンジを応援している人々、実際に取り組んでいる先輩たちが大阪あべのハルカスに大集合。約200名の参加者が各地のゲストと交流を行いました。次回開催日は未定ですが、決まり次第下記webサイトにて開催が案内される予定です。 webサイト▶http://www.jae.or.jp/shikakenin/ Facebook▶https://www.facebook.com/shikakenin.osaka?fref=ts |
運営団体 | 「日本全国!地域仕掛け人市in大阪」実行委員会 事務局:NPO法人JAE・NPO法人ならゆうし |
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